小さく息を吐いて、目の前に見える景色を眺める。

自分の生まれ育った場所だというのに、あまりにも久しぶりに訪れたせいか、知らない場所のように思えるから不思議だ。


まるで世界から隔離されたような閉鎖的な場所。

やはりここは、自分の居場所ではないように思える。


小川を見るのにも飽きて、重たい腰を上げて歩き出す。

コンクリートの道よりも、あぜ道が多いこの町。

足元に転がる石ころを蹴飛ばしながら、あてもなく真っ直ぐな道を歩いた。


いつもは人でごった返した駅や道を歩いていたせいか、こんなにも緑に囲まれて静かな道を歩くのは久しぶりだった。

耳を澄ませば聞こえるのは川の流れる音と、木々が揺れる音だけ。


初めはそれらが凄く贅沢なものに思えていた。

それでも、すぐに飽きてしまって時間を持て余すようになった。


暇潰しに近所を散歩してみたけど、誰一人として人に会わなかった。

一体みんなどこにいるの? と何度もキョロキョロしたもんだ。


だけど、誰かいたらいたで、見慣れぬ若い女がいるのが珍しいのか、穴が開くほど見つめられた。

『姫野の娘です~』と名乗る勇気もなく、下を向いたままテクテクとその場を後にした。