「そんな空っぽの生活を送っていた時、声を掛けてくれたのが、あんたの両親だ」
「え?」
不意に私に向けられた視線と言葉に、目を瞬く。
すると、黒目がちな目を細めて僅かに微笑んだ朝比奈さんがいた。
「俺は家族もそうだし、周りの環境のせいもあって自衛隊一本の生活だった。だけど、それを無くした時、この先どうすればいいか見当もつかなかった。ただ何をするわけでもなくフラフラと当てもなく地方を点々としていた。そんな時、たまたま行き着いたこの町の駅で電車を待ってる時、あんたの両親に声をかけられた」
「――」
「1人座り込んでいる俺を見て、まるで昔からの知り合いみたいに気さくに話しかけてくれた。そして、持っていたおにぎりをくれて、行く場所がないなら家に来ればいいと誘ってくれた」
その言葉に両親らしいな、と思って笑う。
昔からそうだった。
困っている人や、寂しそうにしている人を放っておけない性格の2人。
子供の頃はお節介だなと思っていたけど、大人になった今は、そんな両親を心から尊敬している。
「下宿屋をしていると聞いて一時的に泊まらせてもらおうかと思った。そうしたら、働き先がない俺の現状を知ったあんたの両親は破格の値段で泊まらせてくれた」
「――」
「家の事を少し手伝えば心から喜んでくれて、俺の好きな食べ物を作ってくれた。そんな小さな優しさが本当の息子にでも与えるような優しさで、無意識に閉ざしていた心をいつしか解してくれた」



