「思いあがってたのかもしれません」
「――」
「朝比奈さんが、この町を好いていてくれてるって」
「――」
「でも、本当はどこだってよかったのかもしれない」
別にこの町じゃなくても良かったのかもしれない。
たまたま、うちの両親に話しかけられてここに住み着いただけで、本当はどこだって良かったのかもしれない。
別にこの町に思い入れがあるわけでもなく、親しい人がいるわけでもなく、朝比奈さんにとってはただの通過点。
だから、誰にも心を開こうとしなかったのかもしれない。
いつか出ていく場所だから――…。
「ずっと、3人でいれたらいいな、なんて私……子供みたいなこと」
自分の子供染みた考えに笑えてくる。
長い髪で顔を隠して、唇を噛み締めた。
すると。
「それは、本人に聞いてみな分からんで」
「え?」
「実際に、目を見て話さんと分からんで」
そう言った鍛冶君の言葉に、顔を上げて口を開こうとする。
それでも、視界の端に駅が見えてきて慌てて視線を駅の方に向けた。
そして、必死に目を凝らして辺りを探すと――。
「朝比奈さんっ!」
茜色の光で満ちた世界の中に、1人佇む影を見つけて声を上げる。
誰もいない駅のホームに、太陽を背に立っていた。
あれは間違いなく、朝比奈さんだ。



