そんな母の言葉に、一気に涙の量が増した。
泣き顔なんて見られたくなくて慌てて下を向いたら、母は何も言わずに頭を撫でてくれた。
静かな世界に私のすすり泣く声が聞こえる。
いつの間にか夕日は山の中に吸い込まれてしまって、辺りは夜の帳が落ちてきた。
涙を手の甲で拭って顔を上げれば、マジックアワーの空が広がっていて、そのあまりの美しさに言葉を失った。
「帰ってきなさいよ」
そんな私に、母がもう一度そう言った。
その声を、ぼんやりとしたまま受け止める。
疲れていたんだと思う。
きっと、限界だったんだと思う。
我武者羅に走り続けて、ゴールがやっと見えたと思ったら、全てが消えた。
もう、どこに向かって歩けばいいか分からなかった。
もう、頑張る事に疲れた。
誰かに、助けてほしかった。
だから、私は何も言わずにコクンと頷いた。
どこまでも伸びる、美しい空を見つめながら――。



