「あれ? 朝比奈さん帰ってきてるんか」
夕暮れ時に隣町まで買い物に行っていた鍛冶君が、朝比奈さんの靴を見てそう言った。
その言葉を聞いて、鍋から顔を上げた私は曖昧な笑顔を作る。
「仕事、帰されたみたいで」
「帰された?」
「訳は話してくれなかったんですけど、たぶん、あの噂が関係していそうで……」
「そうか……」
私の言葉を聞いて視線を下げた鍛冶君を横目に、朝比奈さんがいるであろう2階に目を移す。
あれから部屋に籠りっきりで、何も話していない。
部屋に駆けこんで問いただす事もできるけど、私にはそんな度胸なかった。
拒否される事が、怖いんだ。
臆病なくせに偽善者な私が、酷く傲慢に見えた。



