たまちゃんに朝比奈さんの噂話を聞いてから何日か経った。

初めは近所の人に何を言われても無視をしようと決め込んでいたけど、今ではそれも難しくなってきた。

私を見かける度に、顔馴染みの人達が駆け寄ってきてコソコソと耳打ちをしてくる。


『あんな人、置いておいて大丈夫なのか?』って――…。


それは鍛冶君の耳にも入っていたらしく、私と同じように近所の人にいろいろ言われたらしい。

だけど、私と同じで本人の口から聞くまでは信じないし、例えそれが事実でも変わらず朝比奈さんとは接すると言っていた。

その意見には私も同意で、私達だけでも信じてあげようと話した。








「暴力事件、かぁ」


どんよりと曇っている空に向かって、ポツリと呟く。

もうそろそろ梅雨がやってくるのか、世界が銀色に包まれている。

その中で一際鮮やかに咲くアジサイを見つめて、モヤモヤした気持ちを紛らわす。


案の定、噂はどんどん大きくなっていって、町中で囁かれるようになっている。

たまちゃんも、今はその噂で持ちきりだって心配した表情で教えてくれた。


小さなこの町では、その小さな噂が命取りになる。

ましてや、朝比奈さんは突然この町にやってきた人。

それだけでも町の人は興味津々なのに、そんな噂が立てば恰好の餌食だ。

おまけに、朝比奈さんの無口で不愛想な性格が今は裏目に出ている。

頑なに自分の事を話そうとしないスタンスが、更に疑惑の目を濃くしていた。