今声を出したら泣いてしまいそうで、唇を噛み締めてバレないように大きく息を吸う。

そんな私を見ても、母は何も言わずに隣に座っていた。

その温かい母の優しさに、意地を張っていた心が少しだけ緩んだ。


「――……今ね」


意を決してポツリと呟けば、前を見ていた母の視線が私に向けられた。

それでも、目を合わせる事なんてできるわけもなく、俯いたまま口を開く。


「仕事、休んでるの」

「うん」

「少し頑張りすぎて、疲れたから。――…仕事、忙しくて」


本当の事は言えなかった。

結婚間近だった彼氏を後輩に取られて、気まずくなって辞めたなんて。

そんな事、言えなかった。


心配かけたくなかったし、他の女に彼氏を取られたなんて知られたくなかった。

26歳にもなって、恋愛の一つもまともにできないのかって。

捨てられた自分が、惨めで哀れな事、自分が一番分かっていたから。

それに、無理言って東京に出させてもらったから、仕事もせずにいる事に罪悪感があった。