蓋をしたはずの思い出が蘇ってきて、胸が押し潰されそうになる。
頑張って必死に積み上げてきたものは、何一つ手元に残らなかった。
それが、自分が今までやってきた事が、すべて間違っていたと言われているみたいで、悲しくなる。
そんな気持ちを押し込むように、ギュッと目を閉じた。
「志穂は、今幸せ?」
そんな時、隣にいた母がポツリとそう呟いた。
その言葉に、項垂れていた視線を持ち上げる。
すると、優しく微笑んで首を傾げた母が私をじっと見つめていた。
「仕事は楽しい?」
優しくそう問いかけられて、逃げ出したくなる。
気を緩めたら、今にも声を上げて泣いてしまいそうで。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、母は私の答えも聞かないまま、再び視線を連なる山に向けた。
そして、独り言のように、綺麗ねと呟いた。



