そんな事を悟られまいと、必死に震えそうな声に力を入れて口を開く。


「下宿屋、楽しい?」

「もちろん、楽しいわよ。今まで仕事と子育てで、お父さんと一緒に過ごす時間って、なかなかゆっくり取れなかったからね」

「お母さん、夜勤もあったもんね」

「あの頃は我武者羅に働いていたからね~。だから今は自分の好きな事ができて幸せよ」

「お父さんと喧嘩しないの?」

「もちろんするわよ。でも、なんでも言い合える人って、なかなかいないわよ?」


――なんでも言い合える人。


その言葉に悲しくなる。

思い返せば、私は彼と喧嘩すらした事なかった。

いつも聞き分けの良いフリをして、イエスマンになっていた。

嫌われたくない一心で、本当の自分を隠していた。

でもそれは、本当の意味で彼と向き合っていなかったのかもしれない。

だから、結びつきも弱かったのかもしれない。


過去の自分を思い出して、悲しくなる。

あの頃は必死に頑張っていたつもりだったけど、空回りしていただけなのかもしれない。