「綺麗ね」


そんな時、ポツリと小さな声が世界に落ちた。

ゆっくりと視線を隣に向けると、私と同じように真っ赤に染まる世界を見つめていた母がいた。

その横顔は記憶の中より、少しだけ年を重ねていた。


「……うん」

「ふふ、でも、志穂はこの景色が嫌いだったっけ」

「そんな事……」

「そうよね。ここには何もないものね」

「――」

「でも、お母さんは好きよ。ここが」


口ごもる私に視線を向けた母が、優しい笑顔で微笑んだ。

その顔を見た瞬間、一気に胸が熱くなる。

どうしてか分からないけど、泣きたくなった。


そんな私の変化を知ってか、母がゆっくりと私の髪を撫でた。

慈しむように、優しく、優しく。


「何かあったの?」


そして、どこまでも優しい声でそう問いかけてきた。