そんな事を思いながら、いい匂いのするパンを一口頬張ろうとした時、不意に何か思い出したように鍛冶君がその場でピョンっと跳ねた。

何事かと思って視線を向けると、クリクリの目を更に大きく見開いた鍛冶君が、ゴソゴソとパンの入った袋を漁る朝比奈さんに視線を向けた。


「そや! 聞いたで! 朝比奈さん仕事始めよったんやってな!」

「えぇぇ!?」


その突然の発言に、同じように目を見開いて朝比奈さんに視線を向ける。

すると、酷く面倒くさそうに眉根を寄せた朝比奈さんが溜息を吐いた。


「だったら、何」

「聞いてませんよ!」

「言ってないからな」

「水臭いやん! 何の仕事始めたんや! 言うてみ!」

「林業」

「「りんぎょう!?」」


見事にハモった私と鍛冶君をシラけた目で見た朝比奈さんは、怠そうに再び溜息を吐いた。


「山に入って木を切るんだ」

「そんなの分かってますよ!」

「だったら、なんでそんな驚く」

「いや、なんでそれを選んだのかなぁ~って」

「別に。自分に合ってるから」


淡々とそう言われて、確かに、と納得する。

基本何でも器用にこなす朝比奈さんだけど、木材を扱う事に関しては職人級だ。

この前の本棚だって、どこかに売ってそうな勢いだったし。