「うわぁ、沢山! たまちゃんの所からですか?」

「そうそう。畑仕事してたら、じいちゃんとばあちゃんが持って行けってさ」

「ふふ。後でお礼言わなきゃ」

「それにしても多いな」


バタバタと今にも零れそうなパンを両手に駆け寄ってきた鍛冶君が、勢いよく近くにあったテーブルにそれらをばら撒いた。

そして、額に汗した鍛冶君は朝比奈さんが持っていたお茶を強引に奪い取ってゴクゴクと飲み干し、プハーッと言ってから額の汗を拭った。

呆気に取られる私と、非難がましい目の朝比奈さんの表情は、鍛冶君には見えていないようだ。

そんな私達に気づきもせず、大きく息を吐いた鍛冶君はいつものように太陽のように明るい笑顔でガハハハっと笑って口を開いた。


「あの家、商売する気ないで!」

「儲けようとかそんな事より、美味しいものを食べてほしいって感じですもんね」

「あれは関西やったら生きていけんで」

「ふふ、そうかもしれないですね。関西は商いの町ですもん」


家族揃って、本当に優しくてのんびりした家。

だからこそ、作るパンは優しい味がして私は大好きだ。


「あ、そうだ。パン作り教室の話、大丈夫だって、たまちゃんが」

「おぉ~! ほんまか! よかったよかった!」


私の言葉に、鍛冶君が嬉しそうに瞳を輝かせる。

その姿が無邪気な少年のようで可笑しくなった。