「下宿って……なんで、また。仕事はどうしたの?」
はぁっと深い溜息を吐いて、こめかみを押さえた私に気づいて、父の瞳がゆっくりと私に移動してきた。
そして、私と同じ垂れ目を更に垂らしてニッコリと笑った。
「辞めた」
「えっ!? いつ!?」
「おばあちゃんが亡くなって、しばらく経ってかな」
「!!」
「もともと、この家は下宿屋をしていたのは志穂も知っているだろ?」
「私が生まれて辞めたんだっけ」
「そうそう。それでな、数年前に少し離れた所に新しく大学のキャンパスができてな、そこに沢山学生さん達がやってきたんだ。だけど、近くはこんな田舎だからアパートも少なくて困ってるらしくてな。だったら部屋も昔と変わらないまま残ってるんだし、勿体ないから使おうかって」
「……うん」
「で、退職金も2人分入ったから、それを元に軽くリフォームをして下宿屋を再開したんだ」
「ちょ、ちょっと待って! お母さんも仕事辞めたのっ!?」
驚愕の事実に目を見開くと、母はテヘっというように舌を出して、おどけてみせた。
その様子を見て、絶句する。



