「朝比奈さん、ご飯できましたよ~」


二階に向かってそう叫べば、寝ぐせをつけたままの朝比奈さんが眠そうに降りてきた。

その姿を横目にテキパキとご飯と味噌汁をよそって、テーブルに並べていく。


「おはようございます」

「……はよ」


夜更かしでもしていたのか、大きな欠伸と共に小さくそう言った朝比奈さんは、席に着くや否や丁寧に手を合わせてご飯を食べ始めた。

朝から茶碗いっぱいにモリモリ食べるから、作っていて気持ちがいい。



――…あの桜の件以来、朝比奈さんとの距離は縮まったように思う。

といっても、ガラリと変わって会話が増えたわけではないけど、私も朝比奈さんも空気感が変わったように思う。

余所余所しさが消えて、いい距離感を保ちつつ互いを少しだけ認めあえた気がする。


「朝比奈さん、今日は何するんですか?」


淹れたお茶を渡しながらそう問いかけると、眠そうな目でチラリと私に視線を向けた朝比奈さん。

その黒目がちな瞳が、朝の光を取り込んで輝いている。


「別に」

「っていうか、いつも何してるんですか? そもそも、仕事は?」

「他人の心配より自分の心配しろよな」

「え?」

「あんたこそ仕事探してんだろ」


そう言って、朝比奈さんは向こうのテーブルの上に置いてあった求人誌に視線を向けた。

その視線を見て、言い返す言葉に詰まる。