いつか、君にアリガトウと言えるその日まで

東京駅構内にて。

「もしもし。お母さん?私、帰らないわ。私、記憶を取り戻す旅に出るわ。」

そんなことを公衆電話で言い出す娘に母は、

「は?」

と返してきた。

「お金なら大丈夫。私のヘソクリが部屋から見つかったの。」

お金の問題よりも私の心配が強いだろうなと思いつつ、私は、母を安心させるために、言った。

「いいの?お母さん。私、一生このままお母さんやお姉ちゃんのこと思い出せないかもしれないんだよ?私は嫌だよ。」

「それに、大切なものというよりも、大切な人を忘れている。大切な家族や大切な人を取り戻すためにも私は旅に出るの。
安心して。」

電話越しの母はしばらく黙っていた。
しばらくの沈黙のあと、母は

「気をつけて行ってらっしゃい。」

と力強く言って切った。