「くれないの?」
「え?」
タルトなら、渡した、よね、?
「違う。」
「え、と……」
話の意図が見えない。
「加藤(かとう)から聞いた」
加藤っていうのは、知夏の苗字だけど……
何を聞いたの?
「マカロン。くれないの?」
その途端、顔がかぁっと赤くなった。
「ほ、しい、?」
「それ聞く?」
「だ、だって、!」
「じゃあいらない。ほら俺、“ 甘いの好きじゃない ” から」
薄く笑った雨水くんに、『すきです』の4文字すら伝えられない自分がすごく嫌い。
「そ、っか、」
「ん、じゃーね」
毎年のようにチョコレートを渡せず、来た道を帰っていく雨水くんの背中を見ることしか出来ない。
今年も、諦めるしかない
そう思ってぎゅっと目を瞑った時、ハラハラと涙がこぼれ落ちた。
雨水くんの背中はもう角を曲がろうとしている。