「…ごめんなさい、取り乱して」


私は鼻をすすって、俯く。


まさか、人前で泣くなんて。


しかも声まで出して、子どもみたいに。


それでもまだ、私の手は震えていた。


「…おかしいですよね、ちょっと触られたくらいでこんな」


気味悪がられたって仕方ない。こんなの、自分でだって異常だって思う。


「…そんな風にいうなよ。あんなことされて、怖くないわけないだろ」


先輩の声は怒っていた。


私は少しだけ驚いて、でも、なんだかすごく嬉しかった。


怒られてるのに、変なの。


「一応、先生に言っておく?さすがにもう柚月ちゃんには近づいて来ないと思うけど…」


「いえ!あの、言わないでください。誰にも」


「…里美先生にも?」


私は小さく頷く。


「里美ちゃん、きっとお母さんに言っちゃうから」


心配、かけたくない。


もうお母さんのあんな顔見たくない。


「…じゃあせめて送らせて。一人で帰るのは危険だし、心細いでしょ?」


「…大丈夫です。先輩にも、これ以上迷惑かけたくないですし…それに、一人でも平気なんで」


「嘘。バレバレだよ」


私は震えている手を隠す。


「これは…」


「あーもう!俺が、柚月ちゃんと帰りたいの。心配だからっていうのを口実に初めて一緒に帰れるの喜んでるんだよ、ダメ?」


私は先輩の言葉に思わず頬を緩める。


「…なんですか、それ」


「下心。ドキッとした?」


「しません。」


強張っていた体が少しだけ安心したのがわかった。


先輩って、すごい。


先輩の存在が、こんなに私に影響を与えてるんだ。