「うわっなんすか先輩!のぞきっすよー」


「バカ、ふざけてねえでさっさとでろ!お前ら教室で着替えろって!」


「えー?でも俺らここ使えって…」


「嘘だよそんなの!そんな贅沢許されるわけねーだろ!さっさとでろ!ほら!」


一瞬、何が起こったのかわからなくなる。


でも、この声は、見なくてもわかる。


さっきまで騒がしかった資料室が静かになる。ドアが、閉まる音がした。


「…せんぱい」


声が、出ない。喉が、乾燥してカラカラだ。


「…せんぱいっ!」


「柚月!」


目の前に、必死な顔の先輩。


よかった…見つけてくれた…


「お前、それ…」


恥ずかしくなって、私はなんとか前だけでも隠す。


「シャツが、破かれてて…」


ああ、もう、消えたい。


ふわっと先輩の香りがして、先輩のジャージに包まれる。


「これ、着とけ」


そう言う先輩は汗だくで、息が切れていた。


胸が、締め付けられる。


「バカ!焦ったわ!…ほんと、死ぬかと思った…」


「わ、私だって怖くて」


「なんでもホイホイ信じんな!もし俺が来なかったら…」


後頭部を掴まれて、強い力で引かれる。


先輩の香りが強くなる。先輩の骨ばった肩が、おでこにあたる。


「ほんと、俺以外の前で無防備になるの禁止」


クラクラする。聞こえる心臓の音が、先輩のか、自分のか、わからない。


「…先輩だって触られてた」


思わず口から出た声に、そっと体を離される。