それからは毎日夕凪さんに仕事を教えながら自分も仕事をする日々が続いた。大変だったが夕凪さんは物覚えがよく一度教えただけでほとんどの仕事ができるようになっていた。僕は自分が働きだした時の事を思い出していた。

僕は物覚えが悪く先輩たちにたくさん迷惑をかけたっけ。

「違う違うそっちじゃなくてそれはこっち。」

「すみません。」

そんなやり取りがよくあったっけ。だから夕凪さんを見てるとすごいなって思うと同時にこんな風に物覚えがよければ先輩や麻衣に迷惑かけなかったのかな?なんて思っていた。

「夕凪さんそろそろ上がる時間だよ。今日も一日お疲れ様。ゆっくり休んでね。」

「はい。お先に上がらせていただきます。今日もありがとうございました。また明日もよろしくお願いします。」
そう言うと夕凪さんが帰っていった。夕凪さんは言葉使いも丁寧で本当にいい子だった。
 
「匠君もそろそろ上がる時間でしょ。毎日夕凪さんの事ありがとね。匠君も明日も仕事だし早く上がっちゃいな。」

店長が優しくそう言ってくれた。

「じゃあ僕もそろそろ上がります。後はよろしくお願いします。」
そう言って僕は帰る準備をして帰った。

その日の夜の事だった。
暗い暗い闇の中に麻衣がいた。
「お仕事はどう?」
麻衣が尋ねてきた。

「うん。順調だよ。店長は相変わらず優しいし僕にも後輩ができたし。」
そう言うと麻衣はニコッと笑って「それならよかった」と答えた。

「後輩がね麻衣そっくりなんだ。初めて見たときは麻衣が生き返ったのかと思っちゃった。」
僕が嬉しそうに告げると麻衣は暗い顔になっていた。

「私の面影を見るのはその方に失礼だよ。私はもう死んでるんだから。」
麻衣は悲しそうに言った。

「うん。そうだね。夕凪さんは夕凪さん。麻衣は麻衣だもんね。ゴメンね麻衣。」

僕は申し訳なさそうに言った。

「たっくんはまだ私のこと好きなの?」

「当たり前じゃん。麻衣がいたから僕は笑えたし頑張れた。」

「私はもういないんだよ。たっくんはもう自分の事を考えていいんじゃない?私への罪悪感とか感じる必要はないんだよ。」

麻衣は優しくそう言った。

「でも麻衣を死に追い込んで麻衣の事救えなかったのは僕だ。」

「そんなことないよ。私は自分の弱さで自殺を選んだ。それはたっくんのせいじゃない。私が弱かっただけ。」

麻衣は涙を浮かべながら言った。

「私はね生きてた時楽しかったし、たっくんと付き合えた事を後悔はしてないんだ。だからもう自分を責めるのはやめて。」

麻衣は強い口調でそういうと
「またねたっくん。」
そう言って消えていった。

「待ってよ麻衣。行かないで。」

僕はそう言って目が覚めた。

そうだよ。僕も麻衣と付き合ってたことを後悔はしてない。むしろ麻衣には感謝している。それは何より幸せだったから。麻衣とならずっと幸せでいられるとそう思っていた。

「おはようございます。」

僕はいつものようにコンビニに来た。

「おはよう匠君。早いね。どうしたの?」

僕は時間より二時間以上早く仕事場に来ていた。

「ちょっと家にいるのが辛くて。」

そういうと店長は心配そうに声をかけてくれた。

「麻衣ちゃんの事?」

「はい。ちょっと夢見ちゃって。」

「そっかー。麻衣ちゃん匠くんの事が心配で成仏できてないのかもね。」

そうだ。僕は麻衣にこれ以上迷惑はかけたくない。頑張って麻衣を安心させてあげたい。
でもどうすれば安心させてあげられるかな?
考えても答えが出なかった。だから僕は一生懸命働いて一生懸命楽しんで生きることにした。
 
そんなことを考えていたら夕凪さんが来た。

「おはようございます。匠先輩早いですね。」

僕は空元気に「おはよう」と言った。

「なんか匠先輩調子悪いですか?なんか無理して元気出してるみたいですよ。」

 「夕凪さんは鋭いなー。」
僕はビックリした。

麻衣は付き合いが長かったからちょっとした変化にもすぐに気付いた。でも夕凪さんとは知り合ったばかりなのにそんな変化が分かったことに僕はビックリした。

「夕凪さんはよく見てるんだね。ビックリしちゃった。」

「いやーなんか空元気感が出てて。」
夕凪さんは照れながら答えた。

僕たちは仕事の準備を始めた。