柊兄じゃない。

もっと、優しいトーンの声。

その声の主がさっと目の前に現れて、柊兄の手から、鮮やかにナイフを取り上げる。

「こういうの、やめようか」

ニコやかに言って、声の主はナイフをペキンと畳んだ。

それから、畳んだナイフを床に落として、カツンと遠くに蹴り飛ばした。

…柚葉さんだ。

温和な笑いを浮かべてたくせに、本心は相当に怒ってるんだ。

ちょっと、怖くなる。

柊兄の浅い狂気より、ずっと怖いかも。

「楓ちゃんは凪の女じゃなくて、オレの婚約者なんだ。勘違いして関わるのはやめてくれ」

怒りを目に込めて。

呆然としてる、柊兄を、あたしから引きはがす