ああ、疲れた。

珍しく、疲労感を引きずって、家に帰ると、自分の部屋の前に、スーツ姿の兄がいた。

…一瞬、そう思ってしまった。

でも、全然違う。

気が付くのが遅かったせいで、血の気が引いた。

逃げられないかもしれない。

くるっと踵をかえして、今来た道をダッシュで戻る。

お願い、気付かれていませんように。

だけど、それは、はかない願いでしかなくて、

冷たくて、力のこもった手に、肩を掴まれる。

予期していたことなのに、ビクッと反応してしまう。

「…何で逃げるのかな?楓さん」

力づくで振り向かされる。

柊兄の整った冷たい顔がそこにある。