放課後。体育の授業や集会以外で寄ったことのない体育館へと向かっていると近づくにつれてバスケットボールが床で跳ねる音や掛け声などが聞こえてくる。



うちの高校は運動部はそこそこの強さを誇っているらしく体育館も立派なもので、二階、というか観戦スペースのようなものが簡易ではあるがついているのでそこに行けばよいのだが、入り口手前まで来たのはよいもののやはり中に入るのは少し怖くて扉の前で右往左往してしまう。


「何しとん」


突然後ろから聞こえた声に驚いて振り向けば不思議そうにスポーツドリンク片手にこちらを見ていた晴がいた。


「中に入りたいんだけど……」
「入ればいいやん」


そうなんだけど!


晴はバスケ部だし当たり前に入れるんだろうけど私は全然関係ない言うなれば部外者で、試合観戦という名目はあれどなんとなく入りにくいのだ。



「てかずっとここおっても雨降っとるし寒いだけやろ」
「……私別にバスケ部じゃないし……部外者だし……入っていいのかなって思ったらどうすればいいか分かんなくて……」



確かに朝より雨も酷くなって夏に近づいているといっても少し寒いがそういうことじゃない。と大人しく理由を話せば晴は漸く合点がいったように頷いた。



「飽きもせず毎日活動見に来とる女もおるし気にせんでいいわそんなん」
「晴って言い方冷たいよね……」



慶はどちらかと言えば実年齢より幼い感じだが反対に晴は実年齢より大人な感じで、いつもどこか落ち着いている。

だから、というわけではないがくるもの拒まず去るもの追わずといった感じで彼の対人関係は成り立っているし。例外も百合と慶の幼馴染二人くらいで、遠くから三人でいるのを見かけたときには大きな声で笑っている晴を見て驚いたくらいには私と話すときは喜怒哀楽の感情表現が乏しい。


「晴は今日の練習試合でるの?」
「さあ?練習試合やから出るかもしれんけど基本的に先輩方が出るけ分からん」


冷たい。というわけではないのだけれど質問に簡潔に答える様子は、人それぞれの解答がある国語と違って過程は違っても行きつく答えは一つに決まっている数学みたいだ。


「要は慶のバスケしとるとこ見にきたん?」
「え?うーん。確かに誘われたけど、そうなるのかな?どうだろ?」
「なんやそれ」


ふ、と笑った晴に。あ、初めて私との会話で笑ってくれた。なんて嬉しくなるのはもしかして私は彼に嫌われてるんじゃないかと不安に思っていたからで、私もそんな彼につられて笑みを浮かべる。


「ま、特にそういうのないなら俺の事でも見とけば退屈せんから見とけ」
「なにその自信。イケメンなのが逆に腹立つんだけど」


冗談に冗談で返せば晴は「なんでや!」と笑いながら言って突然私の頭に手を伸ばしてわしゃわしゃと撫でてきた。

突然の事で目を丸くする私に晴は満足したようで、もう一度優しく笑って「百合に要が来たって伝えとくわ」と先に体育館の中へと入っていった。

















「……イケメンってずるい」








漸く口からでたのはそんな負け惜しみのような言葉だった。