「要ー」
「はーいー?」


一時間目の数学の時間が終わると廊下の方についている窓から誰かが私を呼ぶので返事をしてそちらに振り替える。隣の席で何か言いたげにしている男は構うもんか。


「今日うちの部が他校と練習試合するんやけどさ」
「あー。聞いた聞いた」


教室の外で待っていたのは慶と晴の幼馴染だと彼らに紹介された黒田 百合。
二人の幼馴染というだけあって疑問に思ったことなんかは隠さずに言うし二人のいつもの言い合いが五月蝿くなってくると止めるのも彼女である。


『こいつらの面倒見るの一緒に頑張ろうね!』


簡単な自己紹介をしたあと私の手を取って最初に言った百合の言葉がこれなのだが後ろで男二人が不満そうな顔をしていたのは言うまでもないだろう。


そんな百合はバスケ部のマネージャーをしていて、こうやって私が見に来ない?と誘われるのも初めてではない。


「雨降ってるしさ。試合見に来てくれたら終わったあと一緒に帰れるし!」


そう百合が提案すると同時に二時間目が始まるチャイムが廊下に響いて、彼女は無理にとは言わんから、と最後に笑って自分の教室へと駆け足で戻っていった。



確かに今日は雨が降っていて一人で帰るのもなんだか寂しいし、所謂慶と晴を密かに想う恋する乙女たちの剣幕が怖くて今まで断ってきたけど一回くらいは見に行こうかな。


と考えながら自分の席につけば、まだ先生が来ていないからとお喋りを続ける周りの子達に便乗してかちょんちょんと隣の慶が制服の袖を引っ張ってきたのでそちらを向く。


「なんで俺の手紙は無視するくせに百合とはちゃんと話すん」


慶ともそこそこの付き合いになってきて分かった事は彼はいたずら好きの構って欲しがりさんということだ。小さな子どものように駄々を捏ねるほど幼稚なわけではないけどこうして拗ねることが多々ある。

百合はこうなった慶にも遠慮なく「うるさい散れ」と言うが私はまだ彼と交友関係を持って数ヵ月である。扱いに慣れてきたとは言えど流石にそこまでは言えない。


「授業中だったから」
「真面目やな」
「慶は不真面目すぎ」


この男。授業中はさっきのように手紙を送ってくるか寝るかこっそり持ってきた漫画を机の下に隠して器用に読むくらいしかしていないのだ。というか最後のに至っては校則違反でもある。


「あーあ。百合と会わせん方がよかった気がしてきたわ」
「なんで?」


ぐでっと効果音が付くならそんなところだろうと思われるような体勢で机に寝そべるとため息をついてチラリとこちらに目を向けた。



「要が百合みたいになってきたから」
「つまり?」
「なんか三人目の母さんみたい」



色々言いたいことはあったが、お前百合の事お母さんだと思ってたのか。と九州で暮らし始めて少し口調が悪くなった私はまずそう思った。