あ、雨
どこからかふと聞こえたそんな声に従って窓の方へ顔を向けるとなるほど確かに、灰色の空からは小降りではあるが雨がポツポツと降っていた。
世間一般的には梅雨と呼ばれる季節に突入し、春の気持ちのよい暖かな気候からは一転。
空気はじとりといっぱいの湿気を含んでおり、制服は冬服から夏服へと代わったため肌の露出が増えた私たちの肌に気持ち悪さを残すようになった。
先月結局悩みに悩んだ入部届けは白紙のまま。
私はとりあえず帰宅部として学校が終わり特に用事がなければ真っ直ぐ家へと帰る生活を送っていた。
聞きなれなかった訛りや方言も今では大分慣れてきて、慶と晴だけではなく女の子の友達も増えた。
「じゃあ、この問題を碇さん。よろしくね」
「あ、はい!」
4月の頃は簡単だった数学の問題も今では少し考える時間と教科書を睨み付けながらじゃないとすぐには答えが出てこなくて、こうして当てられても先生の方が3分ほど待ってくれる。
黒板に書かれた問題をノートに写して計算して、終わったら今度はそのノートを持って黒板に答えを写していく。
あまり人前にでて何かをするというのは得意ではないのでこうして当てられると間違ってたらどうしよう。と不安になってしまうのはどうにか出来ないだろうか。
なんとか書き終わって席に戻ると一通り私の計算を見た先生は笑顔で正解です。と丸を付けてくれたのでほっと胸を撫で下ろす。
さて先生の解説を聞いてもう一度確認しようとペンを片手にノートを見れば視界の端に入った丸められた紙。
手紙。なんだろうけどいったい誰が授業中にこんなものを、と先生に見つからないように開く。
『今日放課後他校と練習試合あるんやけど見に来ん?』
思わずパッと隣を見れば顔を伏せて寝ていると思っていた慶が愉快そうに目を細めて此方を見ており。
『どう?』
と今度は口パクで伝えてくる。
授業中でしょ。とかまたこんな事して。とか言いたいことはたくさんあるが、慶のどこか勝ち誇ったような顔がなんだか気に入らなくて私は少し睨んで手紙も口パクでも返事を返さずまた黒板の文字を書き写す作業を再開した。