何事かとこちらを見つめる人の視線は流石に鬱陶しかったのか国近くんのお友達さんは周りの人達に睨みを聞かせて黙らせるとこほん。と態とらしく声にだして手をこちらに差し出した。


「……ん?」
「ん?じゃなくてな!……悪かったなと。八つ当たりみたいな事して」


少し離れたところで国近くんが「八つ当たりみたいやなくて完全に八つ当たりやったやんあれ」と野次を飛ばしてきたのに対し、お友達さんは「お前は黙っとけ!」と恥ずかしいのか少し頬を赤らめて怒鳴る。


「赤城晴」
「……え?あ。碇要、です」


改めて自己紹介をしようとしたらしく名前だけ言ってきた彼に私も遅れて気づき、出されたままだった手を恐る恐る握った。


「え、っと赤城くんは国近くんのお友達、でいいんだよね?」
「は?友達とか気色悪いけやめろ。ただの腐れ縁やし。あと君づけもぞわぞわして落ち着かんから晴って呼び捨てでいい」


国近くんも中々思ったことを口にするタイプだったけれどこちらは、なんというかそれ以上に遠慮なく嫌なことは嫌。とはっきり言うタイプのようだ。
私はどちらかと云えば好ましく思う方だけれど味方も多ければ敵も多く作りそうな性格だな、と思う。


「えっと……は、る?」
「なんでそんなぎこちない感じなん……」


最初は怖い人だな。と思っていたけれどこうして少し話してみると悪い人ではないと分かるし、離れて私と晴の行方を見守っていた国近くんもどうやら上手くいったらしいと察してこちらにやってくる。


「晴~。そんなただの腐れ縁とか寂しいこと言うなや。俺とお前の仲やん?」
「きっしょ」


心底嫌そうな顔をしていても肩に組まれた腕を振り払わないところを見る限り、二人の口から出ていた暴言の数々はやはり付き合いの長さからのものらしい。


「つうか要まだ入部届けだしてないん?」
「う、うん」


ナチュラルに名前を呼び捨てにされて動揺しながら頷けば「ふーん」と話題に出したくせに興味のなさそうな反応をする晴のすぐ隣で驚いたようにそんな晴を見る国近くん。


「え、何?お前碇呼び捨てにしてんの?」
「別にお前の彼女じゃないんやけいいやろうが」


何か問題でもありますか。とでも言いたげな声音にそう言われてしまえば何も言えないのか顔は納得していないがそれ以上は言わない国近くん。


「国近くんも名前で呼んでいいよ……?」
「え!まじ?」


なんだか可哀想だったので私からそう提案してあげると途端に嬉しそうに反応する国近くん。「代わりに俺の名前も呼び捨てでいいから!」と言う彼は何故か晴にドヤ顔をキメている。


「え、なに?慶って要のこと好きなん?」
「は?違うけど?というか晴の方こそ要の事好きなんかと思ったわ」


晴の言葉に息をつく暇もなく否定する慶の言葉とそれに対して「なんで会ってそんな経ってない女に惚れると思ったん」と無慈悲に答える晴に、告白する前にフラれた女の子みたいな複雑だが悲しい気持ちになる。


私だって二人の事友達としては好きだけどそういった意味では好きではないし!
とやけくそに心の中で叫ぶ。イケメンだとは思うけどね!





そんなこんなで朝から騒がしい教室にチャイムが響く頃にはなんだか悲しい気持ちになった私と未だ白紙のまま何も考えられてない入部届けだけが残った。