「いーかーり!」
「ぎゃ!?」
素敵とは言い難い国近くんとの出会いからはや一ヶ月が経とうとしている。
彼はあのときの間抜けな私の顔が気に入ったのかこうして時々私を驚かせてはケラケラと笑って隣の自分の席に座る。
朝の恒例行事となりつつあるそれに最初こそ悲鳴をあげる私を心配そうに窺っていたクラスメイトも慣れてきたのか今ではまたやってるよとでも言いたげな苦笑い。
「おはよ。何真剣な顔してるん?」
「……おはよ。ただの入部届けだよ。期限明日までだしどうしようかなって」
「まだ悩んでたんか」
興味がなさそうに机に頬杖をついて私。ではなくて私の机の上に置かれた入部届けを見る彼は入学式の時にクラスが分かれたと言っていた友達とバスケ部に既に入部届けをだして活動も少しだが一緒にやらせてもらっているらしい。
少し前にもこうして悩んでいた私に「バスケ部のマネージャーならん?」 と誘ってはくれたのだがそれなりの容姿を持っている彼がバスケ部に所属するらしい。と聞いた一部の女の子たちがこぞってバスケ部のマネージャーとして入部届けを出しているのを知っていたのでその中に混じれる自信のない私は断ってしまったのだ。だって怖いし。
うーん。と悩み続ける私に誘いを断られた事を少なからず根に持っているらしい彼は「そんなに悩むんならマネなってくれてもいいやん」とご機嫌ななめである。
「おい!慶!」
いつまでも悩む私を面白くなさそうに眺めている国近くんの名前が突然教室の外から叫ばれて、もういっそ帰宅部でもいいかな、とまた真剣に考え出していた私は大きな声が聞こえたことに驚きびくりと肩を跳ねさせ、同時に顔を教室の入り口へ向けた。
「うるせえよ!晴!」
呼ばれた国近くんが悪態を吐きながら向かった先にいた男の子は大きな声を出したことで集まった人の視線など気にしてない様子で先程よりは小さいがそれでもよく通る声で言葉を紡ぐ。
「体育館にシューズ忘れんなや。大変やろここまで持ってくる俺が」
「いや、知らんわ。文句言うなら置いとけばよかったやん」
ぽんぽんとリズムよく会話をしている二人を思わずぽかんとした顔で見つめているとそんな私に気づいたらしい国近くんのお友達と目が合う。
「なに?」
さながら今の私は蛇に睨まれた蛙と云ったところだろうか。国近くんのお友達怖い。
「人に八つ当たりすんな」
「あ?うっさいわ」
怯えて声も出せない私の様子に気がついた国近くんがすぐに「おい」と嗜めるようにお友達に言う。
遠慮のない言葉は仲がいい証拠なのだろうがそれにしても一々出てくる言葉物騒である。
少し話をして落ち着いてきたらしいお友達さんは何を思ったのかこちらに歩いてきて私の目の前で止まって、座っている私を見下ろす。
うわー。イケメンの友達はイケメンなんだなー。
こちらにきて見下ろすだけのお友達さんに私も何も言えず、そんな現実逃避紛いの事をしていれば教室に来たときから眉間に寄せていたシワがふっととれたかと思うと眉を下げて「あー……」とお友達さんはかける言葉を探している様子を見せ始めた。