「へー。東京の人なんや」


めっちゃ都会やん。と目を輝かせて言う彼の名前は国近 慶というらしい。

友達とはクラスが別になってしまった挙げ句自分の周りの席の人が誰も来てなくて暇をしていたところにやっとやって来たのが私だったとの事で「仲良くしてな」と笑顔で言う国近くんは勿論生まれも育ちも九州。
そんな彼の口から自然と出る方言や訛りに標準語の私は不思議な感動を覚える。


「方言とかちゃんと聞くの始めてだからちょっと楽しいかも」
「俺はずっと聞いてきたから今さらなんも思わんわ……」


今日が初登校だというのに制服の下にパーカーを着ている国近くんはそんなに真面目ではなさそうだけれど少し癖っ毛の他の人に比べると明るい髪色や瞳は染めたわけでもカラコンをしているわけでもないらしく、私が「それ地毛?」と聞いたときには「ちゃんと地毛やぞ」と少し不機嫌になって言った。


「碇は何か部活とか入ろうと思っとるん?」
「んー……悩み中」


私の後ろに座った子は女の子だったけれどその子はクラスに知り合いがいたらしくてその子と仲良く会話を始めてしまい、話しかけるタイミングを逃した私は今現在話せる人が国近くんしかいないのと、まだこの学校にどんな部活があるのか把握していないのとあってそんな風に曖昧に答える。


「部活やらんの?」
「ううん。そういうことじゃないんだけど。ただどんな部活あるのか分かんないから」


私が理由を言うと納得したようになるほどと頷いた彼はふと教室に掛けられた時計に目を向けたのでつられるようにして私も同じ方を向く。

式の時間が近づくにつれて増えていくクラスメイトとそれに比例して大きくなっていく周りの声に気がついてはいたが既に時計の針は式の10分前を指していて、随分と長く彼と話をしていたことが分かった。


もうすぐで入学式始まるね。


と私がそう口にしようとしたところでタイミング悪く入室してきた先生に一瞬で静まり返る教室。
音を紡ごうとして失敗した私の口は中途半端に開いて閉じたが、そんな私の様子も見逃さなかったらしい彼は


『ま た あ と で』


と分かりやすく区切りながら口を動かして最後に悪戯っ子のような無邪気な笑顔を浮かべた。