「いちゃつくなら他所でやれや鬱陶しい」
「別にいちゃついてないわ!勉強教えてやっただけやしそういう晴は勉強せんでも大丈夫なんか?お?」
声のした方へ顔を向ければいつの間にか復活していた晴が未だだるそうではあるがこちらを見ており、それに真っ先に噛みついたのはお約束というか慶だった。
「ほーん。勉強教えてただけね。そんな慶さんの元カノの百合さんはどう思います?」
「あ、馬鹿野郎!お前逃げやがったな晴!」
「え、そうなの!?」
然り気無い晴からのカミングアウトに慌てる慶と驚く私に見つめられた百合はいつの間にか手を止めて会話の行く末を見守っていたらしく思い切り顔をしかめていた。
「あんたらほんと煩いんやけど」
「言われてんぞ慶と要」
「は?俺は別に煩くしてねえよ」
また始まりそうな言い合いに「慶と晴煩い」と低い声で二人を睨みながら言う百合は今度こそ大人しく口を閉じる彼らに呆れた様にため息をついた。
いや、そんな事より
「慶と百合って付き合ってたの……?」
晴の言葉にさっきから気になっていた私が恐る恐る誰に問うわけではないが確かに三人に聞こえるように声に出すと慶と百合が反応する。
「んー、まあ、少し?」
「晴ほんと許さねえからな……」
あまり気にしてない様子の百合と違って慶はこの話はしたくなかったようで晴の方を睨むが先ほど百合に怒られたためかそれ以上晴に文句を言うことはしない。
「え、ちなみにどっちから告白したの!」
「女子ってこういう話ほんと好きよな」
思わぬ恋バナの予感に勉強の事なんか忘れて身を乗り出す勢いで食いつく私に火種を撒いた張本人の晴は心底どうでもよさそうに呟く。
「告白したのは私」
「え、うわー、まじか!え、」
わりとあっさりと色々と暴露してくれる百合は語彙力がなくなった私を見て笑いながら他にも色々教えてくれる。
初デートは映画を見に行った。
中学一年の時から二年まで付き合ってた。
クリスマスなどのイベントの日も二人でデートした。
などなど少女漫画や恋愛小説で読んだような内容が実際にあったという事実に私の乙女心は最高潮に盛り上がる。
「ただ三年に上がる前に慶に振られたんよ」
「そうだったんだ……」
少し眉を下げて困ったように笑う百合に私も途端に申し訳なくなって黙り混む。
「もう満足したんならこの話は二度とすんな」
聞こえた声に慶の方を見るといつの間にか帰る用意をしていたらしい彼はそれだけ言うと教室をでていってしまった。
それに私の好奇心で慶を傷つけてしまったらしいと気づいた私は、机の上に出していた勉強道具を急いで鞄にしまうと「ごめん先帰る!」と私の突然の行動に驚いているのかきょとんとしている晴と百合に断りをいれて慶を追いかけるようにして教室を出た。
「百合。お前態と慶を怒らせるように色々喋ったやろ」
「……別に」
「慶に気に入られてる要が気に食わんのか」
「要の事嫌いじゃない。好き。かわいいし」
「……」
「私口悪いし言いたいこと結構遠慮せず言うけん嫌われやすいのに、要は私のそういうとこ好きって言ってくれる」
「じゃあなんであんな事したん」
「……だって」
私まだ慶の事好きやもん
夕陽が射し込む教室でされた二人の会話は、そのまま誰に聞かれることもなく空に溶けた。