「どうした蒼衣?そんな難しい顔して」


学校から帰るといつものようにたく兄の家に遊びにいった。

この頃のたく兄は現役の高校生だった。


「…んー、…ねえ、たく兄ちゃん。
好きな人ってどうやったらできるの?」


私からの予想外の質問に思わず吹き出すたく兄。

急いで酷い顔を直して、戸惑いながら私に質問し返してきた。

「どうした急に?蒼衣もしかして好きなやつでもできたのか?そうなのか?え?」


切羽詰まって私の肩を力強く掴んできた。


「たく兄痛いよ。
好きな人がいないから聞いてんじゃん。」


「ほんとか!蒼衣好きな人いないのか!?」


「うん…」


激しく動揺しているたく兄にびっくりした。


そして、私の頭をポンポンとしてくる。


「なんで好きな人が欲しいの?」

今度は優しい手で、私のことを大切にしてくれているのが伝わってきた。

「だって…クラスの子にはみんな好きな人がいて、私はいないから、話に入れなくて…」


ポンポン

「いないのだって普通だよ。それに、蒼衣にもいつか好きな人ができるって。」


その言葉に私は少し励まされた。

そうだよね。いつかはできるよね。


私がたく兄に笑顔を向けると、たく兄はポンポンからガシガシへと少し手に力を加えた。


「なんなら、それまで俺のこと好きでいてもいんだぞ。」


たく兄の顔をみたら、頬を赤くして、いつものたく兄とは少し違って数倍かっこよく見えた。


トクン…トクン



たく兄のガシガシと動かす手がゆっくりとなって、そして止まった。


その間がなんだかくすぐったかった。


初めての感覚だった。



何も言葉が出てこなくなって、ただただこの余韻に浸っていたかった。


自分の波打つ鼓動だけが聞こえ、少し照れたたく兄の顔が目の前にある。



そこで、私はわかったんだ。




「って…、なんか言えよ恥ずかしいから。」


私の頭にあったたく兄の手がいなくなった。

それだけでなんだか寂しい気持ちになった。


まだ少し赤くなってて、私から視線を逸らして、恥ずかしそうに口元を隠す姿が愛おしく感じた。


「たく兄のことは大好きだよ。」


そうだ。私はたく兄のことが大好きだよ。


でもね、今言った好きは、
私が今までたく兄に言ってきたのとは違うんだ。



それは多分

私が


たく兄に


恋をしたからなんだよ。