「…でも、蒼衣が好きなのは俺じゃないんだ。」
だけど、それをぶち壊したのはたく兄の言葉だった。
「え…、何どういう…」
「蒼衣は勘違いしてんだよ。
蒼衣が好きなのは俺じゃない。
“たく兄”なんだよ。」
何が言いたいのか全く理解できなかった。
たく兄はたく兄じゃない。
何が間違ってるの?
勘違い?
どういうこと?
頭にはクエスチョンマークが沢山ついている。
「何よ、それいみわかんない。」
「わからないなら教えてやるよ。」
再び私はたく兄に腕を引っ張られ、今度はベッドに押し倒されるかたちになった。
ドスン
目を見開くと、目の前にはたく兄の顔があった。
だけどその顔は、見たことない男の人の顔。
“たく兄”じゃないの…?
たく兄の優しい目とは違い、冷たくて悲しい目。
それでも、私はその目に吸い込まれそうになった。
ブラウスのボタンにたく兄の手がかかる。
プツンプツンとボタンが外れていく音がするが、私は何かに取り憑かれたようにして、動けなかった。
我に返ったときには、上から3つ目のボタンがあけられていた。
必死にたく兄の腕を掴んで止めようとするが、びくともしない。
誰だかわからない。
たく兄じゃない。
怖くてたまらなかった。
パチン
無我夢中で抵抗し、私はたく兄の頬を思いっきり叩いていた。
部屋に鳴り響いた冷たい音とともに、たく兄の手が止まった。
「これでわかっただろ。」
たく兄はそう言い残して、部屋をあとにした。
怖さでからだがまだ震えている。
自分の胸元を見ると、はだけてしまっていてだらしがなかった。
本当にあれがたく兄だったなんて思えない。
何か悪い夢だ。
そう思って、何度も自分の頬を摘んでだり、叩いたりした。
でも、何も変わらない。
これが現実だと思い知らせる。
涙だけが溢れてくる。
ボロボロと泣き崩れ、私はベッドで疲れ切るまで泣き続けた。

