「おーい、白石、さっきからどーしたんだよ。」


「……」

「おいって!」


「え!?…あ、何?」

高津からの呼びかけに私は気づかなかった。何度も私の名前を呼んでいたようで、ハッとして顔を上げると、
そこには心配そうに私をみる高津の顔があった。


「何じゃねーよ。さっきからお前上の空じゃん。」



確かにそうだ。

あのあと、点呼を終えて
その後すぐに授業が始まり、先生と実習生は教室から出ていった。

でも、その間私の頭はボーとしてて、授業の内容なんてひとつも入ってこなかった。


「何かあった?」


高津になんて話せるわけがない。

私とたく兄のことなんて……



って、ちょっと近いっつーーのー!



パチン



あ……




「痛って!何すんだよ、心配してやってんのにビンタとかありえねー」


「だってあんたが近すぎるから!」


いつもの癖で思わずビンタをしてしまった。

不機嫌そうにこちらを睨みつけてくる高津の顔はいかにも怒っているように見えた。


さすがに今のは申し訳ないが、
最近コイツが近すぎるのに困っていたから分からせてやるのにも丁度よかったのだと、
ポジティブにとらえた。


その後高津は大人しくなって、席に座った。


そのことで、私も次の授業からはたく兄のことを忘れていた。