校門を出てからしばらくたったが沈黙は続いた。
なんでこんなに緊張してしまっているのだろう。
いつもどんな話をしていたっけ。
私は一歩前を進む高津の背中をじっとみつめた。
「…明日で教育実習、最後なんだよな…」
「うん…」
すると急に高津は足をとめ、こちらを振り返った。
「…お前、このままでいいの?」
私は高津の言ったセリフを理解できなかった。
「…浅井先生、いなくなるけどいいの?」
真剣な顔でこっちをじっと見つめてくる。
「なんで…そんなこと…」
「好きなんだろ。浅井先生のこと。」
私はその発言にびくりと体が動いた。
「…どうして」
「見てればわかるっつーの。告白とかしなくていーの?
こういうのって言わなかったら後悔するんじゃねーの?」
恋愛に対して疎いと思っていたけど、意外と鋭い高津に驚いた。
高津にまでばれてるなんて…私ってそんなにわかりやすいのかな。
告白なんてもうしてしまった。二度もした。
でもダメだった。私はたく兄にとって永遠に妹でしかないんだ。
そう思っていたのに…なんでキスなんてしてきたんだろう。
「あの人モテるし、明日タイミング見てないと、ほかの女子たちに時間奪われるぞ。」
「…なんでそんなこと、高津には関係ないじゃん。」
「ひでーな。心配してやってんのに。友達の恋は応援しないとなーって」
友達…
高津からのその言葉がひっかかった。
「友達なの?私たちって」
思わず言葉に出てしまった。
「そーなんじゃねーの。お前が友達だとを思えば俺は友達でいいんだよ。」
私は高津からの返事に胸がズキンと痛んだ。
高津の気持ちがわからない。
高津がはっきり言わないことをいいことに、私は高津とこのまま何もなかったように今まで通りの友達を続けていくのだろうか。
でももし、あのキスが、
今まで気づかずにいた高津の本音だとしたら…
このまま気づかないふりをしていくことは高津を傷つけてしまうんじゃないだろうか…。
そう思うとすごく嫌だ。
「嫌だよ。高津の気持ちを教えてよ。
このまま気づかないふりしていくなんて私にはできないよ!」
私は少し半泣きになって叫んだ。
高津はそんな私の顔を見て、びっくりした表情を一瞬見せ、困った顔をした。
「なんだよ。今更。
お前がなかったことにしたんだろ。
俺にとっては最後の望みだったんだ。お前に好きなやつがいるのも知ってたし、それが悔しくて、あの時白石のこととられたくないって思って……キスした。
これ聞いて、後悔しないなら言うけど、
…俺は白石のことが好きだよ。」
もしかしたら高津は私のことが好きなのではと思っていた。
そうなったとき困るのはわかってた。
でもそれでも知りたくて聞いたんだ。
なんだろう、このドキドキは。
今までに見たことのない高津の表情に心が動揺してしまっている。
「聞けて満足?
…で、どーすんだよ。さすがに俺、こんなこと言ってこのまま平気な顔でお前の前にいられないんだけど。」
そういって少し顔を赤らめる高津の姿に心がすごく揺さぶられている。
なんなんだよ、この気持ちは。
わかんないよ。
「顔真っ赤」
「うるさい!びっくりしてるの!
まさかと思ってたんだもん。高津が私のこと好きだなんて考えたことなかったから。」
「それはそうだろ。俺だって最近気づいたし」
「は?どーゆうことよそれ」
「そのまんまの意味だよ。
でも、白石には好きな人がいた。顔も歳も、身長も頭脳も、サッカーすらも敵わない。
この際言っとくけど、俺は全然白石が浅井先生のこと好きなの認めたくないよ。
浅井先生チャラそうだし、歳離れてるし、モテるし。」
私は拗ねた顔をする高津を見て思わず笑ってしまった。
そんな私の顔を見て、今度は微笑んだ。
「久しぶりに見れた気がする、白石の笑顔。
…やっぱり、やめるわ。」
「え?」
「あきらめるのやめる。
すぐにじゃなくていいから考えといて。俺と付き合うの。」
「へ!?」
私の驚く顔を見てうれしそうな顔をする。
私もその顔を嫌だとは思えなかった。
今まで高津と付き合うなんて考えたことなかった。
でも、ここ数日高津と話せずにいるだけで、心が沈んでしまってつらかった。
高津のそばにいられるのは友達という肩書でしかないと思っていた。
でもこうして気持ちをぶるけあっても笑いあっていられるのは
友達以上の関係としてもなりったっていけるのかもしれないと、一瞬だけ思った。

