「あれ、高津くん、どーしたの?」


保健室の扉を開けると、春川先生が俺の顔を心配そうに覗いてきた。


「ちょっと鼻血が」



「あらほんと!体操服にまでついてるわね!
授業ももうすぐ終わっちゃうから、制服に着替えてほうがいいわ。て、まずは、もう鼻血止まったの?」



俺はゆっくりと鼻から手を離した。


どうやら止まったようだ。



洗面台を借りて顔についた血を洗い流した。



鼻に綿を詰めるなんて、小学生ぶりだった。



「せっかくの整った顔がこれじゃ台無しね」


春川先生はそう言って俺の頬に手を添えて、にっこりと笑った。



...っ、危ねぇ、またこの人の目に吸い込まれそうな気持ちになりそうだった。


俺は慌てて立ち上がり、もう処置も終えたことだから退出しようとした。


「あ、待って!」


だけど、春川先生に呼び止められてしまった。

保健室を利用した際に書かなくてはならない紙があるようだ。


俺は適当にそれを書いてしまおうとした。



ガラッ



すると保健室の扉が開いた。




「失礼します。
体育の授業で怪我しちゃって...、っ!」


俺のあとに来たそいつは、俺の顔をみるなり、少し戸惑った顔をした。


「あら、白石さん。どーしたの?」



「バスケしてたら、突き指しちゃって...」



「そうなの?じゃあ、冷やすもの持ってくるからここに座って待ってて。」



そう言われてそいつは、俺の斜め向かいの席に座った。


じっとそいつのあとを追っていた俺の視線からそいつは耐えきれなくなって俺に声をかけてきた。



「高津...どこか怪我したの?」


俺を見ているようであったが、やはり視線を外しているのがよくわかった。

「見りゃーわかんだろ、鼻血でたんだよ。」


こんな酷い顔をしてるっていうのに、お前はどこに目をつけてるんだと言ってやりたかった。

お前のこと考えてたせいでこうなったんだぞって、文句言ってやりたかったけど、まあそんなこと出来るはずもなかった。



「ぷはっ!ほんとだ!ひっどい顔!」


すると今度は腹を抱えて笑いだした。


やっぱりこいつはムカつくやつだ。


「何してたらそんなことなるのよ、ぷはは!」


「うっせーな!ぼーっとしてたらボールが急に来たんだから仕方ねーだろ!」



俺はなんでこんなやつ好きになったんだろう。


可愛げなんて全くないし、

俺の事なんて眼中になくて、

他に好きなやつもいる



でも、こいつの笑顔を見ているだけど

もうそんなことどうでもよくなって


もっと笑顔にさせたい、こいつを守りたいと思ってしまう。




「で、あんたさっきから何書いてんの?」


白石は俺の手元にある紙を指さいてそういった。


「これ書いてって春川先生が。
なんか利用者記録みたいなやつ。」



「何それ、私そんなの書いたことないけど。」



「え、でも」


するとそこへ春川先生がやって来た。



「はい!白石さん、これで冷やしてみて。
テーピングとかした方が良さそう?」


「あ、いえ!大丈夫です!大したほどではないので!」



そうして白石は慌ただしく部屋から出ていった。



俺はニコニコした顔で白石を見送る春川先生の姿を眺めた。


何を考えているのか、全くわからなかった。


ピシャリと戸が閉まる音がする。



すると今度はにこりとこっちを向いて笑ってきた。




なんだろう、この人




まるで、あいつと同じ笑い方をする。






浅井卓巳と同じ、なんだか不気味な笑みだった。