文化祭の日、俺はあいつにキスをした。



でもその訳をあいつは聞いてくることはなかった。



それどころか、いつものように接してくる。



まるであのキスをなかった事のようにしているようだった。



「おはよう」



あいつからのその言葉が俺の胸をギュッと苦しめた。





「お、朝からラブラブしてんな」



クラスの男子が1人、俺たちに向かってそう言ってきた。



そして、困った顔をする白石をみると俺は咄嗟にこんな嘘をついていた。



「あーあれ、フリだから。
な、白石、俺らキスなんてしてねーよな。」



俺がそう言うとキョトンとした顔で、俺を見つめ、
慌てて頷いていた。



「もーいいだろ。俺たちのアドリブ演技のおかげで劇の最後盛り上がったことだし。」



正直もうこの話はして欲しくなかった。




俺だってこんなふうに周りから質問攻めにあうことくらい予想はできた。



なのにあの時は、自分がおかしくなってしまったのかと思うくらい瞬発的にあんなことをしていた。



それは多分、舞台袖にあいつの姿が見えたからだ。



あいつが白石のことをじっと見つめて
俺と手を繋いでいる時は少しムッとした顔をして

ずっとこっちを見てくる浅井先生がいたから

俺はあいつに見せつけるように


白石を抱きしめていた。



そして想像よりも小さくて、細くて、温かい、
俺の知らない白石が俺の腕の中にいて、

俺は俺じゃなくなったみたいに

あいつにキスをした。




でも、俺はそのことになにも後悔はしていない。




あのキスがきっかけで

白石が理由を問いただして来た時、


俺は白石に告白しよう


そう思った。



だからこれはきっかけにするんだ




そう思っていたのに





次に白石と会った時には、もう白石の中にあのキスのことは消えていて、

いや、消されていて、


俺はもうどうしようもなくなった。




そして、白石がなんでキスの理由を聞いてこないか考えたとき、


あー、やっぱりあいつにとって俺は
どうしても友達でいて欲しんだな


そう嫌になるくらい思い知らされた。




そして俺の初恋は告白することも出来ず、終わりを告げた。