この歳になると、母の仕事についていくことが増えた。
この時母は自販機に飲み物を補充する仕事をしていた。
夜遅く仕事が終わり、いつも晩飯は外食だった。
眠い、それでもお腹はすいた。
船をこぎながらご飯を食べていた。


私はこの歳に遠慮することを覚えた。
母の仕事場には女性が少なく、母は紅一点だった。
小さな子供を連れた女性にその仕事場は優しかった。
母の上司は私を可愛がり、よく外食に連れていかれた。
目の前に出されたお寿司を頬張る私に母は

「沢山食べちゃダメ」

と耳打ちした。
私はすぐにごちそうさま!と笑顔で言った。
子供の笑顔は無敵だ。
母の上司はにこにこしながらまた行こうね、と言ってくれた。
ただ何となく、これが最後だろうと思った。
母はこの場に居たくないのだ。
居たくないがために私を使った。
それを察していても私は何故か誇らしかった。
母の役に立てる方法は、無敵の笑顔で、遠慮を覚えて、世渡りを上手くしていくこと。
この考えが数年後の自分の首を締めることになるとは思わなかった。