彼は高嶺のヤンキー様5(元ヤン)




私の両腕と左足の包帯を変えながらその人は言った。



「では最後まで、ゾンビのDVDを見てしまったんですね。」

「はい・・・」

「それは良くないね。睡眠不足は、成長期の体には悪い。糖尿病の発症率も上げてしまう。」

「シゲ先生、注目する点はそこですか?」

「医者視点で言えば、夜更かしはよくありません。」



淡々と言いながら、私の腕にキレイに包帯を巻いていくのはシゲ先生こと山本重治先生。

前回、海でおぼれた時に、瑞希お兄ちゃん達を通して知り合ったおじいちゃん先生だった。

瑞希お兄ちゃん達とゾンビ映画を見た翌日、私はフェリチータまで往診に来て下さったおじいちゃん先生の治療を受けていた。

場所は、Closeをかけたフェリチータの店内の住居スペースにある和室。

お店が開いてる時は休憩室であり、閉店時はみんなで団らんする部屋・・・昨日みたいに、大画面のある部屋でのDVD鑑賞会を行ったりするらしい。

他にも、個人的な来客があった際に使うと瑞希お兄ちゃんは言っていたけど、ほとんどないらしい。



「キレイな治り方をしてるから、目立つあとは残らないよ。」

「ありがとうございます。それと・・・本当にすみません。わざわざ、お店まで出向いて頂いて・・・」

「いいんだよ。他の患者さんのところにも行く予定だからね。」



穏やかな口調で言われ、少しだけ罪悪感が消える。

診てもらっている怪我は、九條アキナに拳銃で撃たれた両腕と左足。

さいわいどれも、弾がかすった程度の浅い傷。

手当ては、薬をぬって包帯を巻くだけの簡単なもの。

それでもシゲ先生が言うには、しばらく定期的に傷の経過を見る必要があるらしい。




「うはははは!ほんま、ええじいさんやで!!」




そんな私達を、和室の入り口に座っていた大男が笑い飛ばす。



「うはははは!初代はんらがおらんと気を狙って、凛の治療に来てくれるとは!人情あふれる親切なじいさんやで!」

「ヤマトも親切じゃないか?僕を、ここまで送ってくれたんですから。」



今この場にいるのは、出張診療に来てくれたシゲ先生と、夏期講習を終えて菅原凛から凛道蓮になった私と、そんな私をここまで運んでくれたヤマトの3人。

全員に共通するのは、凛道蓮=菅原凛であると知っていること。

私が女の子だと知る者だけが集まっていた。