「蓮君、タクシー呼んであげるから帰りなさい。」
「え?」
「お姉さん、お仕事があるから付き添えないけど我慢してね。」
「でも、会長さんに頼まれたので・・・」
「あ。」
ふいに、瑞希お兄ちゃんが声をもらす。
「来て!」
「え?」
強引に、暗がりに連れ込まれる。
タクシー乗り場とは真逆の場所。
戸惑えば、正面から抱き付かれる。
「私の腰を抱きなさい。」
「ええ!?」
「早く。」
「はい!」
好きな人からの突然の指示。
逆らう気なんてない。
言われるまま、恐る恐る・・・思い切って抱き付く。
(わわ!?瑞希お兄ちゃんが着てる服、背中が丸見えなんじゃない!?)
素肌に触れる感覚で、顔が赤くなる。
「あ、あの!」
そのことを確かめる前に、相手は小声で言った。
「手はもっと下よ。」
「え!?」
「背中じゃなくて、腰!早くしなさい。」
「す、すみません。」
慌てて触る場所を変えれば、瑞希お兄ちゃんは私と抱き合った状態で背中を壁にをつける。
(ど、どーなるの??)
何が始まるのかと思っていれば、彼の視線が私から離れる。
「?」
(なに?)
不審に思いつつ、同じ方向を見れば、2人の男女が車から乗りてきたところだった。
1人は普通のおじさん。
もう1人は・・・
(若い女の子・・・・・・親子?)
そう思った時、瑞希お兄ちゃんが耳元でささやく。
「あの青いバンから出てきた男女に、気づかれないようにして。車の連中にもね?」
「え?あの親子と、車の人ですか?」
「・・・監視するから、盾になって。」
「わ、わかりました。」
「じゃあ、視線は私だけを見る。体も、もっと密着させて。」
「へ?」
「早く。」
「は、はい。」
言われるがままにくっつく。
悪い指示じゃなかったけど、今の私は男で、お兄ちゃんは女。
(これだと、私がセクハラしてることにならない!?)
〔★完璧な恋人を演じればセーフだ★〕


