緊張しながら獅子島さんを見る。
相手は、瞬きすることなく、私を見ている。
開いている本のページを見ることなく、じっと見ている。
本当に怖い。
「宿題はどうなってる?」
「え!?」
いきなり声を発したので、驚いて声が上ずってしまった。
それに獅子島さんは、メガネを直しながら言った。
「高千穂達のことだ。」
「あ、ああ!みんな、頑張ってます!」
「夏休み終了までに終わりそうか?」
「はい。頑張ってますので。」
「フン・・・褒美があればできるということか。扱いやすいことだ。」
「あの・・・何か飲みますか?」
「冷蔵庫に麦茶があったはずだ。勝手に飲め。」
「え?獅子島さんは飲まないんですか?」
「氷を入れて持ってこい。」
「はーい。」
自分の分と合わせて用意する。
グラスを取り出し、冷凍庫と冷蔵庫を開ける。
(よかった。これで時間が稼げる。)
「お待たせしました。」
カウンター越しに、獅子島さんの前にグラスを置く。
それに相手は手を伸ばして口づけた。
「どうですか?」
「麦茶だろう?」
「そうですけど。」
そんなやり取りをしつつ、自分の分の麦茶を持ってキッチンから出る。
「・・・。」
「・・・」
(会話が続かない・・・!)
笑顔をキープしつつも、心は修羅場。
チラッと獅子島さんを見れば、本は開いてるけど私を見てる。
だからと言って話しかけてくるそぶりはない。
(なんなの?)
笑顔を作りながら考える。
こちらから声をかけるべきか、話題を振るべきか。
とはいえ、獅子島さんが好きな会話ってわからない。
でも、黙ったままだと精神的につらい。
そんな葛藤を続けた結果。
カランカラーン!
お店の入り口に誰か入ってきた。
(お客さんだ!)
救いの神が現れる。
気まずい空気から解放されることにホッとする。
最高の笑顔でお出迎えをした。
「いらっしゃいませ~!ご注文は何ですかぁ♪」
「息子を助けてください!」
「え!?・・・そういうオーダーは受け付けてないんですが・・・?」
〔★メニューにない注文だ★〕


