「愛子ちゃん!こいつ知ってるか!?」
伸びてる馬鹿の顔をお姉さんに向ける会長さん。
私に支えられ、こわごわのぞき込むが・・・
「知らない・・・初めて見る人、です。」
困惑の表情で彼女は答える。
「そうか!かえって知り合いじゃなくてよかった!しかし、ホントにクズだぜ!」
「おーい、大原さん!」
「例のストーカー、捕まえたんだって!?」
「応援に来たぜー!!」
そんな声と共に、こちらにやってくる集団。
それを見て、瑞希お兄ちゃんが動いた。
「会長、俺らはそろそろ・・・」
「あ、ああ。わかってる。」
「帰るぞ、凛。」
「はい。」
瑞希お兄ちゃんに手招きされ、お姉さんから離れる。
「あ、チョコ君!もう行くの?」
「はい。」
「あなたは、私の恩人だよ?だから・・・その、恥ずかしがることは・・・」
「ごめんなさい。」
優しいお姉さんに笑顔で伝えた。
「僕、目立つのが苦手なんです。だから、ストーカーを取り押さえたのは会長さんということにして下さいね?それがこの作戦を行う条件だったんですから。」
凛道蓮になる時、気をつけなければいけないのが身元を隠すこと。
例え良いことをしたとしても、その行為が事件解決の動きなら・・・事情聴取を受けなければいけないことなら、架空の存在である凛道蓮を演じるのは無理。
だから、パトロールで良いことをしても、警察に行くような展開になった場合、最初からかかわってないことにしてほしいと瑞希お兄ちゃんに頼んだ。
恥ずかしがり屋を強調してお願いした。優しい彼は、私の申し出を許可してくれた。
パトロールの責任者である会長さんもそれに同意してくれた。
やっぱり世の中、根回しは大事だと思う。
「そのことは、お姉さんも理解してくれましたよね?」
「そうだけど・・・お礼が出来ないのは・・・」
「お礼がほしくてしたんじゃないです。」
何か言いたそうなストーカーの被害者に言った。
「あなたをの笑顔がほしかったんです。」
「え!?」
「お礼はもう頂きました。では、失礼します。」
笑顔で言えば、お姉さんが手で口を覆う。
耳が赤い気がしたけど、瑞希お兄ちゃんに引っ張られたのでスルーした。
お姉さんに背を向けて立ち去る。
「がははは!良いこと言うじゃんか、チョコちゃん!」
親指を立てる会長さんに会釈する。
暗闇に紛れるように、瑞希お兄ちゃんとその場から離れた。


