「長政は大丈夫だから、料理が冷めないうちに食べてくれ!」
「ありがとうございます。頂きます。」
「ご馳走になります。」
美味しそうな料理を、ハシでつまんで口に運ぶ。
そーっと、バンダナの下から口に入れる。
布が汚れないようにしたのだが・・・
「ホントに、マスクしたまま食べるんだな、チョコちゃん?」
「え?」
私を観察しながら会長さんは言う。
「ずーっとサナちゃんに、チョコちゃんとの飯を誘ってたんだが、『凛は照れ屋だからマスクしたまま飯を食う。行儀にうるさい会長さんがそれを許さないと思いますから無理です。』って言って今日まで断られ続けてたんだが・・・」
「そ、そうなんですか!?」
気まずい思いで瑞希お兄ちゃんを見る。
彼は苦笑いしながら言った。
「人には事情があるって言ってもしつこくてな、会長。文句言わないって言うから、今日は連れてきたんだ。」
「言うわけないだろう~?チョコちゃんも、ジロジロ顔を見たりしないからはずして食べなよ!な!?」
「・・・はあ。」
どうしようかと迷ったけど、行儀が悪いというのが心に響いた。
一緒にいる瑞希お兄ちゃんまでそう思われるのは嫌だ。
なので、顎のあたりまで布をずらした。
「おぉお!?可愛い顔してるじゃんか!?」
「え!?」
そう言われ、慌てて布を上げる。
「あ。悪い悪い!おじさん、もう見ないから!」
慌てて両手をふりながら言う会長さん。
それで再び布を下ろせば・・・
「おお~!?キレイな顔してるな~?」
「そ、そうでもないですよ。」
やっぱり、じろじろ見ながら言うおじさんならぬおじいさん。
(気まずいけど、のどは隠してるからいいよね?)
ささやかな抵抗として、相手に見ないように下を向きながら食べる。
飲み込む時、変な感覚だけど仕方ない。
「会長、あんま見ないでやってください。マジで、顔を見られるのが嫌なんすよ。」
「仕方ないだろう?可愛くて、キレイな顔してんだからよぉ~!?まったく悪くないじゃねぇか!?むしろ、芸能人みたいだぞ!?」
「連れて帰りますよ?」
「わかったわかった!弟思いのお兄ちゃんにはかなわないぜ!」
「当然すよ。」
肩を抱かれ引き寄せられて、思わずむせそうになる。
ピッタリと彼にくっついたまま食べるご飯は最高。
この時間が、永遠に続けば・・・
「お父さん、大変だよ!」
続きそうになかった。
険しい顔をした会長さんの奥さんがやってきたことで、幸せタイムは終わる。


