彼は高嶺のヤンキー様5(元ヤン)




いつもより早めに家を出た。

塾の自習室を、坂口さんが使うのは知っていた。

だから、そこに行けば彼女に会えると思った。

静かに自習室をのぞけば、探していた相手がいた。

できるだけ、自然に、さりげない動きで彼女に声をかけた。



「お、おはよう、坂口さん。」

「あ、おはよう、菅原さん。早いね?」

「ええ・・・その、坂口さんと2人だけで、話がしたいんですが・・・いいですか?」

「もちろんよ。」



そう言って笑うと、素早く席を立つ坂口さん。

一緒に勉強していた子を残し、私達は廊下に出た。

すぐに彼女は小声で聞いてきた。



「飲んでみたの?」



期待に満ちた顔で言われ、複雑な気分になる。



(本当に坂口さんは、薬物を使っているの?)



もしそうなら、遠まわしでもいいから止めることは出来るのか。

笑顔で返事を待つ相手に言った。



「飲んでません。」

「え!?」

「これ、返します。」



サプリメントを差し出しながら断る。



「どうして!?」



その瞬間、目を吊り上げながら言う坂口さん。



「困るよ!なんで飲まないの!?成績あげたくないの!?」



返そうとするサプリを押し返しながら坂口さんは怒る。



「飲まないで頑張ります。」



強気の姿勢で、彼女にされたように強引に薬を押し付ける。



「・・・わかった!」



ブスッとした顔で言うと、私から未使用の薬を奪い取る。



「これ、私が代わりに飲むから!あなたが飲んだことにするから!」

「え!?何言ってるの、坂口さん・・・・!?」



突然の変化に戸惑う。

なんとなく、表情が普通じゃない気がした。



「あなたが飲んだことにするから!私が代わりに飲む!」

「待って!」



坂口さんが強調する言葉が気になり、思わず引き止める。



「なによ!今さらほしいなんて言うの!?」

「その薬、飲まないでください。」



相手の目を見ながら聞いた。



「それ、本当にサプリなんですか?」

「な!?な、なにを言って・・・」



あきらかに動揺する表情。

瑞希お兄ちゃん達の判断は正しいと確信する。