いつもより早めに家を出た。
塾の自習室を、坂口さんが使うのは知っていた。
だから、そこに行けば彼女に会えると思った。
静かに自習室をのぞけば、探していた相手がいた。
できるだけ、自然に、さりげない動きで彼女に声をかけた。
「お、おはよう、坂口さん。」
「あ、おはよう、菅原さん。早いね?」
「ええ・・・その、坂口さんと2人だけで、話がしたいんですが・・・いいですか?」
「もちろんよ。」
そう言って笑うと、素早く席を立つ坂口さん。
一緒に勉強していた子を残し、私達は廊下に出た。
すぐに彼女は小声で聞いてきた。
「飲んでみたの?」
期待に満ちた顔で言われ、複雑な気分になる。
(本当に坂口さんは、薬物を使っているの?)
もしそうなら、遠まわしでもいいから止めることは出来るのか。
笑顔で返事を待つ相手に言った。
「飲んでません。」
「え!?」
「これ、返します。」
サプリメントを差し出しながら断る。
「どうして!?」
その瞬間、目を吊り上げながら言う坂口さん。
「困るよ!なんで飲まないの!?成績あげたくないの!?」
返そうとするサプリを押し返しながら坂口さんは怒る。
「飲まないで頑張ります。」
強気の姿勢で、彼女にされたように強引に薬を押し付ける。
「・・・わかった!」
ブスッとした顔で言うと、私から未使用の薬を奪い取る。
「これ、私が代わりに飲むから!あなたが飲んだことにするから!」
「え!?何言ってるの、坂口さん・・・・!?」
突然の変化に戸惑う。
なんとなく、表情が普通じゃない気がした。
「あなたが飲んだことにするから!私が代わりに飲む!」
「待って!」
坂口さんが強調する言葉が気になり、思わず引き止める。
「なによ!今さらほしいなんて言うの!?」
「その薬、飲まないでください。」
相手の目を見ながら聞いた。
「それ、本当にサプリなんですか?」
「な!?な、なにを言って・・・」
あきらかに動揺する表情。
瑞希お兄ちゃん達の判断は正しいと確信する。


