「出来るか、凛?女装?きっと、モニカが可愛く仕上げてくれるぞ?」
「・・・できません。」
「じゃあ、この件は関わるなよ?」
「ですが、瑞希お兄ちゃん!」
「頼む!!」
私の言葉を遮って彼は言った。
「・・・・・アキナのこともあったばかりなんだ・・・言うこと聞いてくれ・・・・!」
「お兄ちゃん・・・・・!?」
「凛を・・・・危険に巻き込みたくないんだ・・・・!」
「っ・・・・!!」
気づけば私達は抱き合っていて、瑞希お兄ちゃんは私の耳元でそうささやいていた。
彼の表情は見えなかったけど、どんな顔をしているかは想像できた。
「・・・わかるな、凛?」
「・・・わかりました。」
うながされ、首を縦に振る。
九條アキナのことを出されては、何も言えない。
「・・・良い子だ・・・」
そう言って、彼が私の首に顔を埋める。
私をそんな瑞希お兄ちゃんの頭を抱きしめる。
背中を撫でれば、摺り寄せるように私へと身体を寄せてきた。
(今、九條アキナのことを聞くべきだろうか?)
このタイミングで聞けば、答えてくれるかもしれない。
だけど―――――
―まだ・・・俺の口から凛には言えない。―
―俺は正直・・・アキナとやり合いたくない。勝てないとかじゃなくて、陽翔の大事だったものを壊したくないからだ。―
―俺の命くれてやってもいい。喜んで差し出すぜ。―
(・・・・・・聞けないな。)
瑞希お兄ちゃんが、話す気持ちになっていない以上、聞くことなんてできない。
下手をすれば、傷口に塩を塗り込むようなことになっちゃう。
ますます、傷つけてしまうかもしれない。
(それだけ、心の回復に時間がかかってるのかな・・・)
抱いた頭を、髪の毛をなでる。
手が髪に触れ合うたびに、瑞希お兄ちゃんの香りが強くなる気がした。
今夜はこうやって、瑞希お兄ちゃんをなでているのもいいかもしれない。
「凛。」
低い声で名前を呼ばれる。
「なんでしょう?」
瑞希お兄ちゃんに密着したまま問えば言われた。
「凛、今日はもう帰れ。」
「ええ!?滞在時間、30分以下ですが!?」
〔★帰宅命令が下りた★〕


