彼は高嶺のヤンキー様5(元ヤン)





「出来るか、凛?女装?きっと、モニカが可愛く仕上げてくれるぞ?」

「・・・できません。」

「じゃあ、この件は関わるなよ?」

「ですが、瑞希お兄ちゃん!」

「頼む!!」



私の言葉を遮って彼は言った。





「・・・・・アキナのこともあったばかりなんだ・・・言うこと聞いてくれ・・・・!」

「お兄ちゃん・・・・・!?」

「凛を・・・・危険に巻き込みたくないんだ・・・・!」

「っ・・・・!!」


気づけば私達は抱き合っていて、瑞希お兄ちゃんは私の耳元でそうささやいていた。

彼の表情は見えなかったけど、どんな顔をしているかは想像できた。




「・・・わかるな、凛?」

「・・・わかりました。」




うながされ、首を縦に振る。

九條アキナのことを出されては、何も言えない。



「・・・良い子だ・・・」



そう言って、彼が私の首に顔を埋める。

私をそんな瑞希お兄ちゃんの頭を抱きしめる。

背中を撫でれば、摺り寄せるように私へと身体を寄せてきた。



(今、九條アキナのことを聞くべきだろうか?)



このタイミングで聞けば、答えてくれるかもしれない。

だけど―――――




―まだ・・・俺の口から凛には言えない。―

―俺は正直・・・アキナとやり合いたくない。勝てないとかじゃなくて、陽翔の大事だったものを壊したくないからだ。―

―俺の命くれてやってもいい。喜んで差し出すぜ。―




(・・・・・・聞けないな。)



瑞希お兄ちゃんが、話す気持ちになっていない以上、聞くことなんてできない。

下手をすれば、傷口に塩を塗り込むようなことになっちゃう。

ますます、傷つけてしまうかもしれない。



(それだけ、心の回復に時間がかかってるのかな・・・)



抱いた頭を、髪の毛をなでる。

手が髪に触れ合うたびに、瑞希お兄ちゃんの香りが強くなる気がした。

今夜はこうやって、瑞希お兄ちゃんをなでているのもいいかもしれない。



「凛。」



低い声で名前を呼ばれる。



「なんでしょう?」



瑞希お兄ちゃんに密着したまま問えば言われた。



「凛、今日はもう帰れ。」

「ええ!?滞在時間、30分以下ですが!?」



〔★帰宅命令が下りた★〕