おぼろ。


『あんま社交的な奴じゃなくてね。ほんとはいい奴なのに、損な奴なんだよ~なぁ、アキ』

カウンターの中で、グラスを拭きながら友人が、アキという人を見て言う。


アキという人は、無言のままグラスを口へ運び、氷をカラカラいわせながら、グラスの中のお酒を飲み干した。



…なにか話そうかな…と思ったけど、まだお酒も入ってないし、

第一、話しにくい雰囲気で…苦手なタイプだなあと思っていたので、とりあえず目の前のレッドラムを、クイッと飲んだ。



『ごちそうさん』


アキという人が、右手をジーパンの右後ろのポケットへ手をやり、

しわくちゃの千円札をカウンターへ置くと


『じゃあ、また来るわ。』

と言って席を立った。



『おぅ。あんま気にするなよ。』

友人が、アキという人に声をかけると、


とても優しくニコッと笑い、店の出口へ向かった。


ドアを引きながら、目線をあたしの方にやり、

帽子のツバが上下した。


『おやすみなさい!』


慌てて声を出したため、
緊張が交じってワントーン高い声で、しかも音量も大きめに言ってしまった。


ドアがゆっくり閉まり、外の冷たい空気が一瞬だけ入り込み、店内を涼しくした。