その数日後の昼休み。食堂で食券を買うための列の最後尾に並ぶと、前に綺麗な黒髪の男の子が並んでいた。

後ろ姿だけでキラキラオーラを放っているその人に声をかけると、案の定想くんだった。

今日はTシャツにジーンズというラフな格好をしていた。にも関わらず、首元に光るネックレスが上品さを引き出していた。

ざわざわと騒がしい食堂で、私は意を決して話しかける。

「あ、あのさ…この間、嫌なこと話させちゃってごめんね」
「え?なんのこと?」
「え、だから元カノが忘れられないっていう…」
「ああ。あれ、嘘だけど」
「は?」

想くんは、全く悪びれない様子でそう言った。その時ちょうど、食券買う順番が回ってきた。想くんはきのこパスタのボタンを押した。

「だって、ああでも言わないとななこちゃん諦めてくれなさそうだったし。実希ちゃん食券買わないと後ろの人待ってるよ」
「…え」
「好きなタイプじゃなかったからね」
「………」
「俺、ロングよりショート派だし、貧乳より巨乳が好き。つまりななこちゃんも実希ちゃんもタイプではありません。ほら、早く、食券」
「さ………
最低!!!!!!!!」

私は食券を買うという目的を忘れ、公共の場にも関わらず、とびきり大きな声で想くんにそう言い放った。怒りで顔が熱いから、きっと私の顔は真っ赤に違いない。

たぬきうどん(280円)の食券を購入して、そそくさと食券を食堂のおばさんに手渡し、かわりにたぬきうどんを頂いた。そして呆然とする想くんを置き去りにしてその場を去った。お待たせ、と待たせていた友達に告げて席につく。

彼の言葉を本当だと信じて疑わなかった。勝手に仲間意識まで感じてしまっていた。でも嘘だったんだ。なぜだかとても悲しくなった。そんな悲しみを忘れたくて、たぬきうどんを食べることに意識を集中させたのだった。