with

ぽーん、と白いバレーボールが宙に舞った。
赤いジャージの女子がコートの中で跳ぶ。
スパイクを打つ人とブロックをする2人。

体育館内に靴がキュキュっと鳴る音が響く。
女の子の歓声。
笛の音と、バレーボールを打つ音。

ぼんやりその風景をコートの外で見ていると、一試合終えたエリカが近寄ってきた。
エリカは白い半袖のTシャツに膝までまくり上げた赤ジャージ姿。

「何サボってんのー?」

「サボってない。生理」

寒くないの?と聞くと、エリカは「あつい」と答える。
次のチームがコートに入り、また白いボールが宙に投げ出される。
生理がきて良かった。
エリカと違って私はスポーツが全然ダメだ。
体育の時間は英語の時間に匹敵するニガテな教科。

「そういや今度一緒にライブに行かない?」

隣に座ったエリカが言った。

「ライブ?」

「そ。対バンでやるらしいよ。バンド名聞いたらヒースも参加するみたい」

ヒース?
当たり前のように言われたバンド名だけど、聞いたことがない。
私の顔を見てエリカが怪訝そうに眉をひそめた。

「あんたねえ、翔太さんがいるバンド名忘れたの?」

思わず硬直してしまう。

「そんな名前だったっけ?」

エリカはますます白けた目で私を見た。

「すっかり忘れてたワケね」

忘れていた、というか本気で覚えていない。
それを言うとさらに白い目で見られること必至だ。曖昧に笑って誤魔化す。

『バンドの翔太サン』

を想像してみようとするけれど、うまくいかない。
あの人は一人でギターを弾いている方が似合っている、と思う。

エリカには、何も話していない。
―――翔太サンとのこと。
エリカだけじゃない。他の誰にも喋っていなかった。
秘密にしている、というより何て説明すればいいのか分からない。

私と翔太サン。

キスを2回した。
彼氏、彼女じゃなくて、兄の友だちと友だちの妹。
恋と言うには何か足りない。

(こういうの一体何て言うんだろ)

ぽーん、とバレーボールが宙を舞った。