ばあば様は、息子と孫2人の4人で暮らしていた。

とは言え息子さんは学者で忙しく、家に帰らないのだと。
それで奥さんに逃げられてしまってみっともないねぇといつも愚痴を漏らしていた。

そして息子さんの子供‐早苗(さなえ)お姉ちゃんと章(あきら)は、私と年が近いせいか仲良くなった。
早苗お姉ちゃんは、2つ年上。
章は私と同い年だ。

特に章は、よくばあば様と一緒に遊びに来てくれて庭で遊んだ。
私の小さな頃の記憶の中には、いつも章がいた。


そんな日が、ある日終わりを告げた。


5才のある日、幼稚園から帰るとお母さんが言った。

「ばあば様が亡くなられたの」

亡くなられた?
5才の私には「亡くなる」の意味が分からなかった。

「もう、一生会えなくなるのよ。明日、お別れに行きましょう」
そして次の日、私は手を引かれて、ばあば様の告別式へと行った。

3日間、幼稚園をお休みしていた章が、涙も見せずに呆然としていたのを覚えている。


最後のお別れが終わり、章と早苗お姉ちゃんは火葬場へと行く車に乗り込む。
お母さんはその2人に向かって
「いつでもうちにいらっしゃい。あなたち2人が来てくれると、私も嬉しいの」
そう言って2人を抱きしめていたのを覚えている。


ちょうど庭に咲く、杜若が満開の日だった。