家までは電車で30分。
就職と同時に、1人暮らしをはじめた。

親からは1人暮らしする条件が1つだけあった。
それがオートロックのマンションに住むことだ。
何とか見合う家賃の物件を見つけた時は、心底ほっとしたのを覚えている。
ちなみに実家は郊外のベッドタウンにある。


家に帰ると、化粧も落とさずに布団に顔をうずめる。

‐遥か昔には、私の布団からは章の匂いがしたはずだった。


そもそも・・・私と章が一緒にいた証明さえ、私は何一つとして持っていない。

10年前、私はリセットされたのだ。
そう思いながら、生きてきたのだ。


明後日の月曜日には、章と一緒に働くことになる。
不確かな過去の証拠は、章が全て持っている。

‐どうか不確かなままで居させて欲しいのだ。


ただ目を閉じれば、昨日のように『あの町』の風景が浮かんでくる。

それが、不確かながらも・・・自分の中の、章と過ごした証拠なのかも知れないとも思っている。