彼女は初対面を『覚えていない』と言った。
だけれど俺は、はっきりと覚えている。
3歳の誕生日の日だった。
その日はお父さんが久しぶりに帰ってきた日。
家族4人が揃って、誕生日を祝ってくれた。
大きなケーキをみんなで囲んで、幸せだった。
幸せだったのは、眠りにつくまで。
両親が激しく言い合う声で、夜中に目が覚めた。
そっとリビングを覗くと‐激しく泣き崩れる母親の姿。
「子供なんか産まなきゃよかった」
きっとドラマでしか聞いたことがない言葉だろう。
でも、今でも覚えている。
泣き崩れる母親から、発せられた言葉がそれだった。