「あのさぁ、俺はこの言葉を言いたかったんだよ」

涙がポタポタ、と溢れてくる。

-本当は、ずっとこの言葉を待っていた。


ゆっくりと手を解いて、向かい合う。


「迎えにきたよ」


涙で滲んだ、章の顔。

「ありがとう、章」

私達は抱きしめあう。
それは-13年ぶりの、私達の悲願。


「ごめん、こうしている場合じゃない。終電だ」
あ、そうだ危ないと思い、私達はあわてて手を解く。
すると章は私のボストンを背負って、私の手を取って歩き出した。

「浜松町に出て、そこから大江戸線で帰ろう」

「で、そこからどうやって帰るの?」

「大江戸線の駅からも15分あれば家に着くんだよ」

「そうなんだ」

「明日は休みを取ったから、役所に行こうか」

「そうだね。あと携帯電話買わなきゃ」

「携帯は後でいいよ。どうせ苗字変わるんだから」



そして私達は、モノレールの改札に吸い込まれて行った。




-私達は、今から始まる。
今度こそ『あの約束の続き』が始まるのだ。


近くのプランターには、立派な杜若の花が咲いている。

『幸せは必ずやって来る』