人が一気に居なくなって、私と章は呆然と立ち竦んでいる。

思わず顔を見合わせていると、「弟、渡辺さん」と言って誰かが肩を叩く。
顔を上げるとやっぱり。志木さんだった。

「もう野次馬ができてるし、帰ろう。裏口にタクシー呼ぶよ。僕は店舗に行ってくるから、裏口で待ってて」

志木さんは私が持ってるものを受け取って、私達を裏のエレベーターの方に送り出す。


「行こう」
章は私の手を引いて、長い廊下を歩き始めた。


「えみ、大丈夫だよ。もう終わったんだ」

何度も私に、「大丈夫だ」と声をかける。
ぼんやりとした黒い視界の中で、2人の足音だけが鮮明に響く。


エレベーターの前に来ると‐章はそっと私の目元に、指を持ってくる。


(そうか。私、泣いてたんだ)


章が指で拭うと、視界が鮮明になった。

だけどまた一気に視界がぼんやりとしてくる。
泣いていたと自覚すると、また一気に涙が溢れてきた。


「大丈夫だよ、もう大丈夫」


章がそっと私の肩を抱き、崩れそうな私を支えている。
だけど、章の温もりが涙を加速させていく。



よかった、終わったんだ。


私はずっと章の胸で、泣き続けていた。